三重の実家に一月半も帰っていました。色々イベントがあって、慌ただしくあっという間に過ぎて行きました。
私が一番楽しみにしていたのは、姉の稲刈りに参加する事でした。姉は住んでいる大阪と、実家である三重を行ったり来たり、家族や旦那さんすべてを巻き込んでどうにか農業を続けています。去年は初めて米を作り、私もそのお米をしばらくいただいていました。姉の米は、とても小さくて、小石が時々混じっていました。出来がいいとは到底言えないのですが、私は姉が米を本当に作ったのだと心底感激しました。その年の稲刈りはそれはそれは大変で、普段はソファから微動だにしない父までもが走り回っていたというのですから、こんな私でも何か力になれるかもしれぬと、2歳の息子も一緒に姉の田んぼに向かいました。
朝6時に、すでに姉は田んぼに向かっていました。母も前日から緊張していて、本当に朝から家中がそわそわ緊張していました。今年は台風がじゃんじゃん三重にも来て、姉はその度に「稲が倒れませんように、倒れませんように」と祈っておりました。家族中が台風情報に一喜一憂し、姉の米を心配していました。稲が倒れると、コンバインでの刈り入れがものすごく大変なのだと、そのとき初めて私は知りました。姉の田んぼには朝から、籾殻をとってくれるテルオじいさんが来ており、姉の米はテルオじいさんの機械を壊してしまう程に不純物が多いから、気をつけて稲刈りをするようにと姉の耳元で繰り返し説明しておりました。この地域の人は、ほとんどがこのテルオじいさんちの機械で籾殻を取るのだということも初めて私は知りました。
午後にはマルオおじさんも来てくれて、時々キクオおじさんも様子を見に来てくれました。私は姉よりずっと長く三重に住んでいたけれど、地域のおじさんの名前をほとんど知らないし、話した事もほとんどありませんでした。なので姉の口から次々と「キクオちゃんがアドバイスくれた〜」とか「テルオちゃんに怒られた〜。」とか、じゃんじゃん私の知らない地域のおじさんの名前が出る事にただただ驚いていました。
朝6時に田んぼに行った姉が、刈り入れをすべて終えたのはなんと夕方6時半。田んぼは小さいものが3つだけ。すぐ下で、姉より何倍も大きい田んぼを刈り入れしていた人がいて、その人は1時間もかからずにすべての稲刈りを終えていました。姉の稲刈りがどれだけ大変かお分かりでしょうか?
なぜこんなに大変かというと、まあ私も全然よく分かってないんですが。姉がど素人だというのはもちろんなんですが、ど素人なのに完全無農薬で米を作っているからなんです。そうすると、稲以外の雑草もものすごくて、稲自体はちんちくりんだったりするのに、他の植物がすごいのです。なんかそうすると色々やっぱりスムーズにいかずに、機械は何度も止まるし、その度に姉はヤンマーの人に電話したり、マルオおじちゃんに聞いたりもうものすごく必死に姉が頑張っているのがわかる。サンドイッチをコンバインの椅子の上で少し食べて、あとは朝6時から夕方6時半まで、なんとトイレにも行ってなかったんです。母はそんな姉の事が心配だし力になりたいのとで、周りの草を刈り続けている。
私と父と、2歳の息子はというと、最初はどうしていいか分からずに軽トラックの中でただじっと姉を見ていた。「あれとって来て、これ買って来て」という願いを聞くとすぐに取ってくるくらいしかできなかった。でもどんどん日が傾いて行く中、私もやっぱり草を刈ったりするようになった。そして、父と一緒に軽トラックに乗ってテルオじいさんのところに借り入れた稲を持って行った。私と父は夕暮れの中「ねえちゃんすごいなあ」とつぶやいたり、テルオじいさんがもう80近いのに、めちゃくちゃ重い米のつまった袋を軽々持ち上げることにただ驚いていた。テルオさんも、キクオさんも、マルオちゃんもみんな還暦をとおに過ぎているのに、みんな力持ちで、ものすごくよく働き、日に焼けて、体には無駄な贅肉がついていなかった。農業をするおじさんたちはあまりにもまぶしかった。
そして、農薬を全く使わない姉の田んぼを刈った時に、あまりにもたくさんの生き物が刈った田んぼの中に住んでいた。稲の無くなった田んぼに一歩足を踏み入れると、私の足に驚いた何百何千の生き物達がいっせいに飛び上がった。カエルもものすごい数、虫もものすごい数、カメもいた、ねずみもいた。あんなにもいっせいに動く生き物たちを私は見た事がなかった。ざわざわと大地を揺るがすような生き物達の姿が忘れられない。
その中で、慣れない大きな機械を動かし、おじさんたちに一生懸命教えを乞い、汗まみれになって、家族みんなを巻き込んで、それでも自分がやるといったら何が何でもやるという、なんだかもう変な生き物に見えて来た姉が、私はただただ大好きであります。
そんな血反吐を吐くような想いで作った米は、たった4俵ほどしか採れずに、みんなに「もう来年は肥料くらい使おうよ」と言われながら、姉はさあ来年はどうするのかな。