春キャベツと靴下。ポエムチックに、、、。
そんなことで、私の痙攣のおかげで急遽無痛分娩に切り替えてくれる事となった。うめいていた病室から、私は車いすで分娩室へと運び出された。髪の毛は、私が引っ張り続けたのでぐっちゃぐちゃ、しかも痙攣したままだったので、薬中の患者のような有様。それが多分夜中の1時ころだったと思います。
分娩台に乗っても私は痙攣が止まらないので、看護婦さんが二人掛かりで押さえつけて背中に無痛分娩の注射を打ちました。背中の注射って痛いとか聞くけど、もうこの時は何の痛みだかどうでも良くなっていて、気付かないくらいでした。注射は驚く程早く効いて、いつのまにか痛みが薄れて行きました。やっと人間らしさを取り戻してきた私の顔を覗き込んで、先生が「あんたぁは、人一倍怖がりなんやなあ、、、。もう痛ないやろう?安心しなさい。」と、確認するようにつぶやきました。「そうですぅ、、、。すいませんん。」と、ものすごい醜態をさらしていたことを思い出し、申し訳なくてぐずぐずと私は今度は泣いていました。
ところがどっこい、ここからは、もっとひどい。注射が効いて、鼻水と涙でぐちゃぐちゃの私にしばし平和が訪れた。お腹には、赤ちゃんの心音を確かめる為の機械と、陣痛が来ている事を計る機械が取り付けられていた。「ウンコをしたい気持ちになったら、赤ちゃんが産まれるサインですから、言ってくださいね。」と言い残し、先生は多分仮眠、看護婦さんはこなさなければならない業務を続けていた。ここからがかなり長くて、なかなか便意はおりてこなかった。
たまに様子を見にくる看護婦さんも「まだか〜」という表情で帰って行く。そのとき、、薬でおさえられていたはずの陣痛が、またもや登場するのである。ぎゅいんんんんん〜とあの恐ろしい痛みが忍び寄ってくる。「なんでやー!!」と思いながら、私は再び叫び始める。志保子が野生に帰る時代がまたやってきたのだ。薬を打ってもこの痛みということは?打ってなかったら一体どんだけだよ!!と私は恐怖におののいた。(いい加減慣れろと言いたい)
それで、もう早く出してしまいたいという願いばかりが先走って、便意がそれほどでもないのに、私はアホみたいにウソをついたのだ。「ウンコしたいですううう!!!」と。アホだ。ウソついてもなんの得にもならない事態なのに。その便意宣言を受け、先生も看護師さんもスタンバイに入る。足を台にのせ、テレビで観た事のある、かの有名な出産シーンである。あの台に今自分が乗っている、誰も代わる事のできない役所なのだ。産むのは自分しか居ないのだ。でも、便意がウソだったから、そっからが長いよ。みんな「あれ?」という顔をしている。
「出産ってね、でっかいウンコをする感じだよ。」と話してくれた、友人ひとみちゃんとY先生の声がこだまする。「ああ、なんだ。ウンコをする感じかあ。」それを鵜呑みにしすぎて、私は本当にウンコをぶっ放したらしかった。その後、「はい!力混めていきめー!!」と言う声がしたのに、どうしたらいいかわからずに、私はいきむのではなく「わあああああああ」と叫んだ。全く見当はずれの行為に先生達はびっくりしたように怒る。
「ちゃうがなー!叫んでどうすんのー!!いきむのー!声だしたら力が逃げるでしょうがー!!声を出さずにいきみなさいー!」看護士師さんと先生が夢中で指示を出す。それでも私は間違い続ける。小学生の頃、3段の跳び箱が跳べなかったのは、確か私だけだった。逆上がりを放課後居残りで練習させられたのも、いつの間にか私一人になっていた。自分の体の機能を、昔からコントロールするのが苦手なのだ。よく分からないのだ。
「おしりをあげちゃダメー!どーんと床につけなさいー!踏ん張れないでしょーが!!」まだ先生達は怒っている。「全然言う事きかんし、いきむタイミングがこの子おかしいなあ、、。ちょっと難しいなあ。」先生の困惑した声がする。難しい、お産ってなんて難しいんだ。逆上がりや跳び箱みたいに、結局飛べずに成績が2になるだけでは済まないのだった。産まないと、終われないのだ。そんな事を考えながら、私は今度は呼吸困難に陥っていた。酸素マスクがあてがわれた。私はその酸素マスクが逆に苦しくて、取ろうと必死でもがくと、「取っちゃダメー!」とまた怒られた。もう完全なお産落第生だった。
「これはもうバキュームやなあ。」赤子をひねり出す力に難ありと判断され、赤ちゃんの頭に吸引機をつけて引っ張りだす処置が行なわれた。もう、なんでもええ。出したってくれ。私が下手ないきみをしている間、赤ちゃんの心音がなくなるのが分かる。「ええか、あんたがいきんで呼吸をしてない間、赤ちゃんにも酸素がいかないんよ?赤ちゃんも苦しいんよ?」という声が聞こえる。もうその後は無声映画のようでした。
バキュームで引っ張られた跡かなあ?と私が勝手に思っている、頭の一部が赤く禿げている部分。違ったりして。
出たという感覚が全くないのに、いつの間にか産まれていた。口がカラカラで、顔中に力をいれたせいで、私の顔には赤い斑点が無数にできていた。赤ちゃんがちゃんと泣いた。
「物事には、ちゃんと終わりがあるんだ、、、。あの苦しみにも、終わりがあったんだ。」感動なんて話ではない。もうただただあの苦しみが終わった事が嬉しかった。
お産スペシャルは、まだ続きます。