マジシャンの父につられて、母も1年程前からマジックを始める、、、。発表会を前に、練習に励む母と、それを監督して激を飛ばす父。マジック用の上等なスーツを父に買ってもらい、上機嫌な母。姉から借りた、外国人が歌うシャレたCDをかけて、ステッキを宙に浮かせるパフォーマンスを猛練習中だ。
うちの両親は、目立つ事が好きなようだ。母はいつもきちんと髪を巻き、化粧を盛り、大きなサングラスをかけて、出勤していく。父は恰幅がよくてヒゲもわさわさと生えているので、遠くにいてもすぐに分かる。マジックの大会が近づくと、マジック用のペンギンスーツを出して来て、二人は誇らしげに出かけて行くのだった。
里帰りして、色々なことが相変わらずだとちょっと安心する。私は、派手な格好でマジックに出かけて行く両親を、ぼさーっとした顔で見送り、花束だらけになって騒ぎながらマジックから帰って来る両親を、朝と変わらないぼけーとした顔でまた出迎えるのだった。今日はどんな人が観にきてくれて、こんなにおかしいことがあったとか、会場が停電になっただとかを酔っぱらった母は楽しげに話す。親が元気なのは、なんとありがたい事かと最近よく思います。小学校の時は、ヒゲだらけの父親が父親参観に来るのを死ぬ程恐れていたけど、今なら思う、目立ちたがり屋で元気な親で良かったと。
妊娠しているとはいえ、化粧もせずに一日中家に潜んで母や父の帰りを待っていると、自分がおばあさんなのではないかという錯覚に陥る。自分は子どもに生き生きとした姿を見せられる母親になれるんだろうかと、生き生きしすぎている自分の母親を見てふと心配になる。これはマタニティブルーというやつかしら?