我が家にホームベーカリーなる文明が舞い降りました。
何日も前から母と届くのを楽しみにしており、「ホームベーカリーが来るから、パンはもう買わなくていいよね?」が口癖となっておりました。友人の話によると、「美味しすぎて焼いた瞬間なくなるから、こわくてもう押し入れにしまってある」というほどのデンジャラスマシーンです。
ところがそれほどに楽しみにしていたのに、私と母はすっかり「パンの材料」調達を怠っており、いざ届いて「さあ、焼こうやないか」となったときに母が穴蔵から取り出して来たのが2004年賞味期限の強力粉、2002年賞味期限のドライイースト。
それでもどうしても今焼きたい。っていうかこれまだ使えるんじゃない?というヒソヒソ話の末、パン屋への冒涜、ホームベーカリーへの屈辱を与えるような行為に至りました。その二大賞味期限切れ(しかもパン作りに置ける要)材料を使ってホームベーカリーの筆下しをしてしまったのでした。可哀相な父は、朝になったらできたてのパンが食べられるんや!と嬉しそうに眠りについていました。太った腹を揺らす彼の寝顔が不憫でなりません。
朝、香ばしい香とともに目覚める予定だった私は、「かつて食べ物だった何かの匂い」のようなもので目が覚めました。おそるおそる覗いたマシーンの中には、ふくらまず息絶えた茶色の塊と古民家の屋根裏のような匂いが。それでも焦げ目は美味しそうだったので、ちぎって一口食べましたが、口中に広がったのはカビのかおり。
「クロちゃんにあげよう」と力なくつぶやいた私に、母も静かに頷きました。(クロちゃんはおばあちゃんちの犬です。おばあちゃんの自慢は、クロちゃんがなんでも食べる事。)太った父には、超熟イングリッシュマフィンを焼いてあげました。