花村萬月さんの本です。光文社さんから出版されています。この本の装画を描かせていただきました。
小さな女の子が出てきます。「最愛の存在を得てしまうということは、実は地獄と表裏であることを薄々悟ってしまっていた。」という言葉が出てきます。私は常々、この言葉を自分の中にもって生きてきたような気がします。それは幸せなことなのです。本当に幸せなことなのだけれど、それを失ってしまったらどうやって生きていったらいいのかわからないという不安がつきまとうのです。失ったら自分も死んでしまいそうな存在を、私は多くもっていると思う。
子どもを授かって、その想いが一層強くなってしまった。我が子をもしも失うようなことが起きたら、そう思うだけで背筋が凍ります。スーパーで見失っただけで、冷や汗が私の体を覆い尽くします。テレビで小さい子どもが交通事故に巻き込まれたというニュースを観ると、胸が張り裂けそうで知らない間に涙があふれます。最愛の存在を得た私は、生きている間その不安から逃れられることはないでしょう。
「いまのはなんだ?地獄かな」は58歳で初めて子どもを得た小説家の男性の話です。それまでは「家族なんてクソだ」と思って生きてきたその人が、子育ての喜びを知ってのめりこんでいく様子が、そこはまぎれも無く花村さんの実体験だと思うのですが、本当に真面目な愛情で溢れているのです。痛々しいほどに真面目な愛情なのです。その姿に、私は何度も嗚咽をもらしていました。
どこまでが本当の話で、どこからがフィクションなのかその境目が限りなく曖昧な、今まで読んだことのない小説でした。
この小説の、女の子を描かせていただけたのは、本当に驚くような体験でした。多くの方の手にとっていただけたら嬉しいです。