今日は毎年恒例、年末もちつきの日。物心ついてから、もちつきをしなかった年はありません。ただ小さい頃と違うのは、私も姉もそこそこの戦力に育ったということでした。小さい頃は、お餅が餅つき機の中でぐるぐる回るの見てをゲラゲラ笑って、いたずらに餅をこねくりまわして、好きなだけ餅を食べて、あとはコタツで寝ているだけでした。
その幸福な記憶の裏では母やおばあちゃんや伯母さんが、一生懸命算段をして餅米を蒸し、餅を並べる木の箱を洗い、アンコをあずきから作り、大根をおろし、大きなザルを洗い、餅がへばりついた布を洗い、餅つき機を洗いし続けていたのでした。
「今年はやるぞ〜〜!!」と鼻息を荒くして、まずは無尽蔵のエネルギーを内蔵した姉をおばちゃんちに送り込みました。私と母は、洗濯を干したり朝ご飯の後始末をしてから、遅れ気味で登場。
するとそこはもはや戦場。姉は戦士をいたわる天パのナイチンゲールのように甲斐甲斐しく、蒸し器の餅米を世話していました。この日は、餅つきゴッドハンドのおばあちゃん、エプロンをした伯父さん、マスクをした伯母さん、戦車のような姉、門松担当の母、犬の散歩しかできない父、集団行動のヘタクソな私の総勢7名が古民家に集結したのでした。
いつもはガラパゴスゾウガメよりも動きの遅いおばあちゃんが、年に一度、この日だけはチーターのようにものすごく動きが速い。いつもはただほほえんでいるだけのおばあちゃんが、この日だけはメガホンいらずの大声を出す。そして、いつもは母に怒られて頷いているだけのおばあちゃんが、この日はヒトラーのような強い独裁者となる。全員がおばあちゃんの言う事を聞く。おばあちゃんが指差す方向を向く。強い顔で頬の紅潮したおばあちゃんの横顔を見ながら、私は今年もなんだかどう動いたらいいのかよく分からなかった。
気の遠くなるような大変な作業も、最後にみんなでつきたてのお餅を食べる瞬間にすべて報われます。はああ〜、なるほど。だからおばあちゃんは毎年これをやろうと思うんだな。いつもは一人で住んでいる古い大きな家に、この日はみんなが集まって、みんなが美味しいと言うから、そしてみんながおばあちゃんをすごいと褒める。でも本当にすごい豹変ぶりなのだ。
でもそれは一年に一回だけ見られる姿だからいいのであって、いつもは菩薩のような顔したおばあちゃんがいいのです。