大阪と三重を行ったり来たりして暮らしている姉が、東京の我が家に遊びに来た。夜行バスで。姉は外国でも、寝袋を一つ背負ってどこででも寝ていた女である。夜行バスなんて彼女からしたら高級ベッドかもしれない。私は夜行バスで眠れた記憶がない。まあ、とにかく体力自慢の姉が朝から私の家のチャイムを押したのだ。
夫は、前々からこの日に私の姉が来ると分かっていたので、神奈川の実家に泊まりに行った。姉はどこででも眠れるので「私、ソファに寝るから別に旦那さん居てくれても全然いいのに。」と言っていたが、夫は気を使う人間なので姿をくらましたかったらしい。とにかく、姉、私、息子の3人でお気楽に過ごした。
姉の目的はただ一つ、私の息子のこうちゃんに会うことだった。つまりは甥っ子である。私が里帰り出産を終えて、三重から東京に行くことになって、「私、ひと月に一回はこうちゃんに会いに行くから。」と豪語していたが、仕事が色々と忙しくなり、今日になった。それでもちょくちょく電話をかけてきては「こうちゃんの声を聞かせろ」と電話口で野太い声をあげていた。それくらい可愛がってくれています。彼女の携帯電話は、甥っ子の写真でメモリーがいっぱい。待ち受けも、もちろん甥っ子。最近人見知りが始まった息子も、姉には全く人見知りせず、延々抱っこされ続けています。
姉がおみやげにといって、「アカチャンホンポ」の商品券をくれたので、3人でバスに乗って錦糸町へ。もちろんだっこヒモで息子を抱っこするのは姉。内股で、ものすごい早歩きの姉に抱っこされて、ゆらゆらと息子はあっという間に眠りこける。私は特に重い荷物もないのに、早歩きの姉に追いつくのに必死であった。
錦糸町にて、まずはアカチャンホンポで赤子用のババシャツやらあったかパンツやら、シャンプーハットやら購入した。私がうろちょろとフロア内を歩き回る間、常に息子を見ていてくれる姉。その後、昼ご飯を食べに飲食街へ。ベトナム料理屋が空いていたので、入る。現在授乳中の私は、米の麺(フォー)をどんぶり一杯すすったくらいでは全く足りないので、どっかでお茶しようやと盛り上がる。そしたら、姉が「歩いて帰ろ。その間にお茶するところがあったら入ろ。」という無謀な提案をしてきた。
うちから錦糸町まで、バスでだいたい20分である。しかも途中に、風が吹きすさぶ巨大な橋がかかっている。赤子を抱いて、その距離を歩けるのか?私はスニーカーなのでいけるかもしれないが、姉はリボンのついた華奢なフラットシューズであった。「大丈夫やで。これ、私にはウォーキングシューズやで。」とのたまった。この女の体力は未知数なので、いちかばちか従う事にする。もちろん、息子を抱っこしているのは姉である。都会にいながら、妙にインディジョーンズ体験。姉と居ると、どこでもアドべんチャーな体験ができる。
ビルを抜け、乱立するマンションを抜け、そっくりなおばさん二人といも虫みたいな赤子の旅は続く。息子はその間、寝たり起きたりして、内股で早歩きの姉に守られ続けていた。「私な、自分の体力を基準にしたら、色々と周囲の人とズレが生じるねんけどな。そこらへんが難しいねん。」と、姉は己のバイソン級の体力に対しての悩みを打ち明けながら、歩き続けた。途中で、私が持っていた麦茶のペットボトルを二人で分け合いながら、歩いた。ここはジャングルか?
お茶をするところが、案外なくて、うちについてしまった。姉がおみやげに持って来てくれたクッキーでお茶をする。姉の携帯電話の万歩計は2万歩を超えていた。「夜はピザをとろうや。」と、盛り上がる。私達姉妹は、いつだって食べ物の話をしていると嬉しそうである。
「みみまでチーズが入ってるやつにしよな。」二人は嬉々としてピザメニューに目を通す。スープは私の作ったみそ汁。野菜はゆでたブロッコリーとプチトマト。デザートは、ファミリーマートで買った、シュークリーム。息子には、豆腐とほうれん草の入ったおかゆ。もちろん姉が食べさせる。「今日一日、また食べ物のことばっかりやったな。」といって、3人で川の字になって寝た。
あー楽しかった。