2009年冬号から、朝日新聞出版の小説「トリッパー」で連載されていた前田司郎さんの「濡れた太陽」がついに単行本として出版されました。私は毎回扉絵を描いていました。発売日は本日7日のはず、、、。本屋さんに行ってきます。
この作品には想いがたくさんあります。扉絵を8話分描いて、その間にNHKのスタジオパークに著者の前田さんが出演されたりして、お会いした事もないのに、なんだか勝手にすごい身近に感じて一人でテレビの前で照れたり。
男の子を描くのが苦手なので、何度も描き直しては失敗したり。集団もあまり描いたことなかったので、構図をすごい考えたり。私にとっては毎回挑戦でした。仕事でないときは、自分が得意なものしか描かないけど、お仕事として描く時はやはり挑戦もしたいし、こんなにも緊張するものなんだなとすごく感じました。とてもいい経験をさせていただいたと思います。
表紙でわかると思うのですが、学園物です。高校演劇の話なんです。それでもって、前田さんの自伝になっています。最初は自伝だと知らなかったのですが、スタジオパークで前田さんが「僕は4月生まれだから自分に根拠のない自信があったんです。」みたいな話を、主人公の太陽君もしていたので途中からはっきりと自伝だ!と確信しました。
毎回もちろん原稿を読むのですが、毎回笑っていました。おもしろいフレーズが何個もあって、見つけるたびに蛍光ペンでそこをなぞっていました。本当にいい意味で細かいんです。「確かに高校生のときそんなこと思ってたけど、そんな事まで書いちゃうの?」といつも思っていました。
昔、作家の都築響一さんが「前の方を向いてどんどん研究や開発をしてくれるのは、ほかの研究者やエラい人に任せておいて、僕らは後ろを振り返って過去を掘り返したり、しゃがんでつっついたりしたい」みたいなことを言っていたんですが、前田さんのこの作品はまさにそれなのです。
恥ずかしい事や情けなかった事がいっぱい、本当に私達はアホだった。そこのリアルさと言ったら!このうまく言い表せない感覚を文章では今まで読んだ事がなかったけれど、間違いなくみんな知ってるでしょう。これは高校生のときの私達自身の話です。みんなが忘れていた事を、はっきりと、文章に残してくれたことが私は嬉しいのです。
本屋で少し手に取って、まずは折り返しにある前田さん自身による登場人物紹介を読んでみてください。その短い文章でさえ、懐かしくて笑えてきますから。
私は少しでも、この「濡れた太陽」に関わる事ができて本当に嬉しく思っています。素敵な本を書いてくださった前田さん、未熟なイラストレーターにこの仕事を任せてくださった朝日新聞出版の山田さん、どうもありがとうございました。