ぬか漬けが本当に好きです。日本の誇らしい伝統料理だと思います。私は小さい頃からおばあちゃんの作ったぬか漬けを、一人で抱え込みながら全部食べていました。家族に分ける事もせず、全部私の物だと言わんばかりの食べっぷりでした。ぬか漬けに関しては非常に強欲者です。それを知っているばあさまたちは、私にたくさんぬか漬けを食べさせてくれました。
大阪のおばあちゃんは水なすの漬け物。三重のおばあちゃんは自分の庭で穫れたひんまがったきゅうり。私が帰ってくる時はいつもたくさん漬けてくれました。おばあちゃん達の手についたヌカの匂いも好きでした。おばあちゃんたちがでっかいカメに腰を曲げて野菜を押し込んでいる姿を見るのも好きで、よく後ろからのぞきこんでいました。
その不思議なヌカのカメには、釘が入っていたり、唐辛子が入っていたり、100年前から入ってるんじゃないかと疑うようなしなびきったナスビとかが「一朝一夕にできると思うなよ」という威圧感とともにカメにじっとしているのでした。それは私のようなひよっこが手を出す事を拒んでいるかのような神聖なものに私には映っていました。
だから、おばあちゃん達と離れて暮らすという事は、ぬか漬けに別れを告げる事と同じなのでした。
でも、私は食べたい。ぬか漬けが。手軽にモリモリ食べたい。そのことをずっと考えていたら、新聞の広告で見つけた。「発酵ぬかどこ」という商品。アマゾンでワンクリックで手に入れた!
なんと毎日かき回さなくてもいいの。釘とか自分で入れなくていいの!ジッパーを開けて、きゅうりをねじ込むだけで、9時間後にはつかっているという夢のようなヌカどこ。
失敗も挫折もなく、ぬか漬けができてしまった。でもなんだか一抹の悲しさがよぎったのはどうして?手軽さってこういうことなんだな。楽だけど、私が得たのは、本当にきゅうりのぬか漬けだけなのだ。知識と経験は増えないのだ。私は誰にも「ヌカ作りの知恵」を伝える事はできなくて、ジッパーを開けて突っ込んだキュウリを引っこ抜いて、二人のばあちゃんとは違う味のぬか漬けをバリバリとひたすら口へ運んだ。まあ、やっぱり美味しいんだけどさ。
いつかはマイヌカ床、、、。